【思い立った日、本日和。】
#冬至「つめたいよるに」

冬至

こんにちは。暦生活の下滝です。

寒さも極まって、冷え込んだ日の夜風が身に沁みますね。そんな日に限って月明かりはすごくきれいで、冷たい北風に負けないように月や星を見上げながら、暗い道を早足で帰宅しています。

家について、真っ暗な部屋に明かりを灯し、暖房のスイッチを押してようやくひと心地。
温かい飲み物でも淹れてほっとしよう。そんな時にカップを片手に開きたい本。
今回ご紹介するのは、しんとした寒さと静かなお茶の時間にぴったりな一冊『つめたいよるに』です。

直木賞作家である江國香織さんの、児童文学作品としてのデビュー作『草の丞の話』を含む全21編の短編集。
ひとつひとつの物語が「珠玉の」という言葉にふさわしく、きらきらと輝いています。

冬至

 

忘れかけた心を拾いにいきませんか?

成長する過程でいつの間にか忘れてきた子供の頃の気持ち。お気に入りの遊びや、宝物。こわかった人、優しかった人。乱暴な子、不器用な子、要領のいい子。
いろんなことがあったり、いろんな人に出会ったりしていたけれど、幼くて言葉にできなかった感情を、作者は丁寧に捉えて、まっすぐに伝えてきます。

子供たちのつたない話し方の中にある真実に、読んでいると複雑な気持ちになりつつ、どこか羨ましく感じてしまったり。子供と大人の無邪気さにはたいして変わりがないのかもしれないということに気づいたり。一部をご紹介すると、

●『夜の子どもたち』では、いつもの場所で遊んでいると、突然現れた男から、「早く帰ってもらわないと、夜の子どもが遊びに来るからな」と言われた涼介。一度家に帰ったものの、気になってしまい、彼はこっそりと家を抜け出して遊び場へ行ってみます。すると、そこには…。

冬至

●『子供たちの晩餐』では、両親の外出中に、子供たちが悪いことをしている背徳感と好きなことをしている高揚感を抱きながら、隠していたモノを心から味わうお留守番の話。
たった6ページの中に込められた、大人には内緒のスピード感のあるドラマを楽しんでみてください。

幼い頃の自分にもう一度出会えるような、不思議な魅力のある短編たちはどれも味わい深く、まるで贅沢なデザートを食べているような気持ちになります。

冬至

 

いつまでも消えない、物語の余韻。

胸を揺さぶられる作品の多い本作ですが、中でも1話目の『デューク』は映像化もされた作品で、2001年にセンター試験でこの話が出題された際には、試験中にもかかわらず多くの学生が涙したことで話題になりました。

愛していたペットを失い、泣きながら過ごす主人公に訪れた小さな出会いの物語は、短くてさらっと読めてしまうのに、読後の驚きに思わず読み返してしまいます。優しくてちょっと不思議な世界観の、思わず抱きしめたくなるような愛おしいお話。最後の文章は美しい風景になって読み手の心に残るはず。

冬至

優しくて、美しくて時に残酷で、ちょっとおしゃれな江國さんの魅力が詰まった物語たちは、日常の中にあるさりげない風景に彩られています。だからでしょうか、よく似た景色を見ると、その物語の場面が浮かんできます。

そして、この短編集は1話と最終話の場面が共通していて、どちらも「クリスマス」の街の風景が現れますので、少しだけページをめくって、今見える景色と重なる場面を探してみるのもオススメです。

ちょっとした時間の隙間に幸せをくれるこの短編集を、冬至の長くて“つめたいよる”にぜひ楽しんでみてください。

冬至

-今回のここに注目!-
「それが、メリークリスマス、と俺にはきこえ、俺は二人分のクリスマスの朝食を、ウエハースのカップに山盛りにした。」
アルバイトに励む男の子の心の声に、クスッと笑ってしまう最終話の一文です。ありふれた日常の中にあるちいさな物語たちの中から、お気に入りの作品を探してみませんか?

 

■つめたいよるに

著者:江國 香織
出版社:新潮社
定価:本体460円(税別)
文庫本:209ページ
ISBN:978-4101339139